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前十字靱帯(ACL)損傷(断裂)の治療 <診察〜手術〜リハビリまで>


スポーツ整形外科部長 内山英司
リハビリテーション科理学療法室 今屋健・藤島理恵子



 前十字靱帯とは膝関節の中にある靱帯で、運動するときなどに膝を安定させる役目をしています。前十字靱帯損傷は、膝の外側からタックルされたとき、ステップを切ったとき、ジャンプして着地したときなどに膝がガクッと外れたとき損傷することが多く、ケガした瞬間に「ゴリッ」や「ポキッ」などの音を伴うこともあります。その後数分間は痛みのため動けないことがあります。また時間とともに膝が腫れてきて膝の曲げ伸ばしができにくくなります。通常この症状は1〜2週間くらいで改善し日常生活などは普通にできるようになりますが、スポーツ復帰したときなどに、再度膝が外れて痛み、腫れなどがでてくることがあります。前十字靱帯を損傷したままで運動や生活を続けていると、半月板や軟骨といった膝のクッションの役割をする正常な組織が傷ついてきます。前十字靱帯損傷からの時間が長ければ長いほど、膝が痛くなる、腫れる、引っかかるなどの症状がでやすくなります。


前十字靱帯損傷の主な症状


「膝がぐらぐらする」「膝に力が入らない」「膝が完全に伸びない、正座ができない」「スポーツ復帰して何度も膝をはずしてしまう」「膝が腫れて、熱をもつ」など

 当スポーツ整形外科ではプロスポーツ選手からアマチュア選手、趣味でスポーツを行っている愛好家まで、前十字靱帯損傷の治療を専門的に実施しています。以下に、診察から手術、リハビリの流れを説明します。


1.スポーツ整形外科の診察


専門のスポーツ整形外科医が診察します。ケガをしたときの状況を聞き、膝の状態の診察(靱帯が切れているか、痛み、腫れ、熱感があるかなど)、MRI(必要に応じて)などの所見、膝のゆるみの検査(KT2000という機械で検査します。痛みはありません。)などから総合的に診察し、診断します。それから、現在の膝の状態を説明し、本人のニードを交えながら治療方針を話し合います。必要があれば、膝が元のように動くようにするため、筋力を回復させるためにリハビリ(理学療法)の指示がでます。


2.手術前リハビリ


 スポーツ整形外科を専門にしている理学療法士がリハビリを担当します。
前十字靱帯損傷の後、時に通常の回復より遅く膝の曲げ伸ばしが固くなったり、ももの筋肉(大腿四頭筋)がやせて力が入りにくくなる場合があります。またこのような状態が続いていると、正常に歩けず日常生活に支障をきたしてしまいます。適切なリハビリを行えば、通常2週から1ヶ月ほどで日常生活はもちろん、ジョギングなどの軽い運動は出来るようになります。この時期には、膝もある程度正常に、痛みなく曲げ伸ばしが出来るようになりますので、筋力を測定してどのくらい回復しているか評価し、もう一度スポーツ整形を受診し今後の方針を話し合います。


3.手術(前十字靱帯再建術)から術後リハビリテーション


前十字靱帯の再建術が決まった場合のおよその日程を説明します。当院で実施している前十字靱帯の再建は半腱様筋と薄筋というもも(大腿)の後ろの筋肉の腱を使用し、手術は内視鏡にておこないます。手術後は個人個人で筋力などの膝の回復度合いは違いますので多少前後することはありますが、およそ以下のようなスケジュールとなります。
手術日前日より入院、手術翌日はベッド上安静、手術後2日目からリハビリ開始となります。リハビリは基本的に痛みや不安感のない範囲で進められ、けっして無理のないように行われます。リハビリ室では膝の関節可動域訓練、筋力訓練、歩行訓練を中心に行います。手術後の膝や、靱帯の回復状態は個人差があるため、スポーツドクターと理学療法士が、それぞれの患者様にあったメニューを作成し実施してきます。
リハビリ室ではリハビリ開始当初から痛みや不安定感のない範囲で体重をかけていき、通常1週前後で杖や装具がなくても安定した歩行が可能になります(病棟での生活は、事故防止のためリハ室より長めに松葉杖を使用します)。日常生活レベルの活動(通勤、通学、階段昇降など)はおよそ2週前後で可能となりますのでこの時期に退院となります。4週前後で自転車エルゴメーター、8週前後でジョギングが可能になります。競技の種類にもよりますが、5ヶ月頃より軽い(スポーツ)練習を開始し、8ヶ月頃より競技復帰という形になります。

29歳女性
術後1日
ヒールスライド(膝の関節可動域(屈伸)訓練)
17歳男性 術後4日
クオータースクワット
(大腿四頭筋筋力訓練)
18歳女性 術後9日
歩行訓練
39歳男性 術後17日
階段昇降

4.保存療法(手術をしない場合)


手術をしないで治療を進める場合、筋力強化が主体となります。この場合、筋力トレーニングの方法によっては膝を痛めてしまう場合があるのでリハビリ室で細かく指導します。筋力検査によりいい(健側)の80%以上を競技復帰の目安とし、目標が達成できたら、テーピングや装具をつけて競技復帰となります。

 以上、前十字靱帯損傷の治療の流れを説明しました。前十字靱帯損傷といっても患者さんにより症状は様々で、膝を捻った後、前十字靱帯の損傷に気づかずに生活している人も多いようです。個人で簡単に判断せず、専門の機関を受診することをおすすめします。


以下に患者様から良く聞かれる質問を載せてみました。ご参照下さい。


Q:他の病院で前十字靱帯が切れているかどうか内視鏡を入れてみないと分からないと言われたのですが、内視鏡検査をしないと前十字靱帯が切れているか分からないものなのでしょうか?
A:当スポーツ整形外科の医師は前十字靱帯損傷の患者さんを専門的に治療し経験も豊富です。ですから実際診察をしていて、前十字靱帯を損傷し、どのくらい機能的に働いているかは内視鏡検査をしなくても分かります。すなわち当スポーツ整形外科では、基本的には検査のためだけの内視鏡検査はほとんど行われていません。

Q:前十字靱帯再建術後の傷の跡はどれくらいの大きさなのですか?
A:当院の方法では、膝のお皿の下方の両脇に約1cm傷跡が2カ所、向こうずね(脛骨)に約3cmの傷跡が1カ所。同時に半月板の縫合術をおこなう場合はこのほかに3〜4cmほどの傷跡がつく場合があります。



(左)18歳女性 術後6ヶ月  (右)22歳男性 術後23日

Q:前十字靱帯の再建の手術をしなければどのようなデメリットがあるのですか?
A:前十字靱帯が切れたままでスポーツを続けていくと、その後繰り返し膝をひねってしまうことが多いです。この症状を膝崩れ現象といい、その都度、正常な他の組織、例えば半月板や関節軟骨などが損傷されていく場合があります。この症状は筋力を回復させても改善されないことが多く、元のスポーツレベルへ復帰するためには手術を選択する選手が多いようです。スポーツをしない日常生活だけ行えれば良いという人もなかにはいらっしゃるので、そのような人は必ずしも手術をしなければならないということはありません。細かい点はスポーツ整形外科の医師と相談してください。

Q:年齢が高いと手術できないと言われました。何歳くらいまで手術は可能ですか?
A:基本的に患者様本人のニードにあわせて手術は行われます。最近では中高年の方でもテニスやバレーボール、サッカーなど趣味のレベルでスポーツを行っている方はたくさんいらっしゃいます。当院スポーツ整形外科では、今後もスポーツを続けたいという意志と手術をしたいという希望がある方は、60代前半の方まで手術の経験があり、現在のところ良好な成績を収めています。ただし、年齢が高くなればなるほど関節や骨の状態が悪くなるので、スポーツドクターと細かく相談しながら手術をするか決定しています。

Q:私は実業団レベルのスポーツ選手ですが、手術後の入院中に他の部分が衰えてしまわないか心配です。
A:リハビリ室には、サイベックス、自転車エルゴメーター、全身の筋力トレーニングマシーンなどがあり設備は充実しています。膝に負担がかからない方法で、理学療法士が指導します

サイベックス
(膝筋力トレーニング)
自転車エルゴメータ
ユニバーサルセンチュリオン
(全身の筋力トレーニング)
バイオデックス
(膝筋力測定、トレーニング)